【読書】日本経済の見えない真実

個人消費はアベノミクス景気のもとで、わずか0.3%とほぼゼロ成長だった・・・企業収益が良好で株価も大きく上がった事を考えると、この個人消費の弱さは異様である。・・・家計の実質可処分所得が増えなかったことにほぼ尽きる。

 

潜在成長率がなぜ低いのかを理解する手がかりとして、成長会計に基づく要因分解がよく使われる。成長会計とは、GDPが経済活動の成果(Output)であることに着目し、経済活動の源泉(Input)を足し上げればGDPが説明できる、という考え方である。その場合のInputとして、通常は労働と資本の二つを想定する・・・経済成長は①労働、②資本、という二種類のInputの増加率と、それらをOutputに変換する効率の改善速度で決まることになる。この変換効率のことを、③全要素生産性という言う。

 

他の先進国と比較しても日本の成長率が低い点は、人口の減少・高齢化の影響が大きい。潜在成長率の要因分解で言えば、もはや日本で労働のInputがはっきりとプラスになることはない。

 

一人一時間当たりの経済成長率、言い換えれば生産性の上昇率は、年平均1.0%、米国では0.6%、ドイツでは0.9%と似たり寄ったり。

 

企業の現金・預金は確かに増えているが、内部留保の増え方に比べればはるかに小さく、内部留保を現金・預金として「ためこんでいる」とまでは言えない。資産サイドに見られる最大の特徴は・・・その他固定資産の大幅増は、海外直接投資はM&Aの拡大を反映している可能性が高い。

 

過去20年のバランスシートの変化には、「国内市場の低成長→グローバル展開の積極化→リスクへの備えの必要性→財務基盤の強化」というメカニズムが少なからず働いていた可能性が高い。

 

日本経済の低成長を理解する手がかりとして3点。企業による人件費の抑制、コーポレートガバナンスと経済成長の関係(配当増加)、企業が担う事実上のセーフテネットの存在。

 

アベノミクス景気の6年間で経常利益は73%増加・・・人件費をわずか6%増に抑えたことが、大幅増益の一因である。

 

企業から家計への所得波及が限られたうえに、その多くを政府に納めてしまった為に、消費に回せるお金は手元に残らなかった(税・社会保障負担増、消費税増)。

 

労働分配率は、アベノミクスの期間だけでなく・・・低下傾向にある。これは国際的にも見られる傾向であり、その背後に技術革新やグローバル化などの要因があることが、学術研究でも広く指摘されている。

 

格差が経済成長にマイナスの影響を与えうるメカニズムとして、①低所得層が十分な教育機会を得る事が出来ない、②高所得層は所得を消費に回す割合が低い一方、低所得層は所得自体辞退が制約となって消費出来ない、③債務の返済負担が中低所得層の消費を抑える。

 

日本の労働生産性(実質GDP/総労働時間)は米国を100とすれば64.8。

 

20世紀のある時期までは、多くの主要国で企業の借入が旺盛で、家計の資金余剰が企業の資金不足と概ね見合う経済構造になっていた・・・財政は均衡を保つことがたまたまちょうど良かった。ところが時代が変わり、民間だけでは資金余剰を吸収しきれない経済構造に変わっているのだとしたら、その裏側に当たる政府債務残高も、恒久的に相応の規模を維持しなければならない。